それは、Mr.Leeが唯一信じている、側近であるレイから聞かされた話だった。
父アシュレーと母リナの出逢い・・・
それは、お互いの留学先の国であった。
アシュレーは経済学を、リナはデザインの勉強のために!
共に母国を離れ、不慣れな国での生活に戸惑い、心細い日々。
何故、ヴァンパイアの父が経済学などと思われるだろう!
しかし、今はもう、現代、ヴァンパイアが夜の闇を徘徊していた時代ではないのだ。
そして、彼らは、学内にある古めかしい図書館で、出逢った・・・。
それは、何気ない事。
小柄なリナの手の届かない棚にお目当てのデザインの本が・・・。
長身のアシュレーは、すっと本棚から抜き取り、リナに手渡した。
「はい、これでいいのかな?」
二人の瞳が出会い、アシュレーの優しげな憂いを湛えた眼差しが、
リナから、有難うの言葉さえ奪ってしまった。
静かな沈黙・・・。
アシュレーも一瞬でその可憐な少女のようなリナの微笑みに撃ち抜かれたようだった。
恥ずかしそうに、「有難うございます。」と言うリナの声は、鈴が鳴るように心地よく、アシュレーの耳に響いた。
しかしお互いに何か運命的なものを感じながらも、その日は別々の帰路へと・・・。
だが、運命とは、計り知れないものである!
再びの出逢いもまた、同じ場所、そして、降りしきる雨・・・。
突然の雨に入り口で雨宿りのリナ、そっと差しかけられる傘。
「あっ、」
「こんにちは、また、お会いしましたね。」
「この雨じゃあ、止みそうにない。よかったら、お送りしますよ。」
あの青年だった。
リナは、恥ずかしがりやだったけれど、不思議とこの青年には、
心が閉じる事はなかった。
「有難うございます。」
「ふっ、君はそればっかりだね。」と、笑う人。
リナもつられて思わず微笑んだ・・。
やはり、笑顔の素敵な人だと、アシュレーは心の中で呟いた。
二人が親密になるのに時間は要らなかった。
帰国までの忘れられない素晴らしかった日々!
帰国後の苦しい日々を支えてくれた美しき日々だった。
To be continued.